肩こり
ある症状を持って医療機関を受診する人のうち、肩こりを訴える人の割合は女性では1位、
男性では2位を占める位に、肩こりに悩まされる人は多く、又、小学生、中学生でも20~30%の子供が症状を
持っており、高校生になると60%を超えます。
肩こりは、いわば国民病でもあり、現代病でもあります。
肩こりは、厳密には病名ではなく、患者さんの訴える症状を指します。
肩を作る筋肉群のうっ血、浮腫により生じた、こり、はり、こわばり、重圧感、痛みなどを総称して、肩こりとされています。
その症状を出す疾患としては
1)整形外科的なもの(頚椎やその周辺の組織に由来するもの)
…筋肉疲労・頚椎症・頚部椎間板ヘルニア・胸郭出口症候群
2)内科的なもの
…高血圧・心臓疾患・消化器
3)眼科的なもの
…眼精疲労・緑内障・視力障害
4)耳鼻咽喉科的なもの
…扁桃炎・めまい
5)歯科的なもの
…う歯・顎関節症
6)婦人科
…更年期障害
7)精神科的なもの
…ノイローゼ・うつ病
8)自律神経失調症によるもの
などがあります。
肩こりが起こるメカニズム
筋肉は、伸びたり縮んだりする事で血流をよくしています。
筋肉の緊張状態だけが続くと、血行不良が起こり、そこで生産された疲労物質や痛みを発する物質が除去されずに、炎症や痛みを出します。
すると、その炎症や痛みがまた、筋肉の緊張を起こす…というように、痛みの悪循環を起こします。
この悪循環をどこかで断ち切る事が、肩こりの治療となります。
私たちの身体は、自律神経という脳からの指令によって、自分の意思に関係なく身体の色々なバランスが
保たれています。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、交感神経は身体を戦闘状態に、
副交感神経は心身をリラックスさせる方向に働きます。
筋肉は交感神経に支配されています。
ストレスやイライラを感じると交感神経が興奮するので、筋肉は緊張し、血行不良を起こします。
逆に、筋肉をゆるめる事で交感神経の興奮を抑制することができます。
肩こりを訴える人が増えた事は、ストレスの多い現代を反映しているのかも知れません。
また、うつ病の人が訴える症状の中にも肩こりがあります。
うつ病の原因には、脳の中の神経伝達物質の不足が云われています。
その中のセロトニンという物質が、鍼治療により増加する報告もあります。
又、セロトニンの増加には、リズミカルな運動が効果的であり、
指圧・マッサージによりセロトニンの分泌を促します。
東洋医学的には
筋肉は「肝」が支配しています。東洋医学で言う「肝」は、肝臓という内臓を指すのでなく
「血を貯蔵し必要な所へ血を供給する」という働きを指すので、筋肉的な症状は「肝」が治療の対象となります。
筋肉を動かす「血」そのものの不足(エネルギー不足)で筋肉が栄養できないのか?
必要な所へ運ぶという機能が低下したのか?など、その原因を見きわめて治療します。
この治療方法を「本治法」といいます。「病」の根元となる所に治療を入れる方法です。
この治療を組み入れる事で、肩こりになりやすい体質から治療ができるので、予防効果と、治療効果の持ちを良くする事が出来ます。
女性の肩こりは、血に関係する「子宮」とのかかわりが影響しているとも言えそうです。
婦人科の更年期外来では、肩こりを訴える患者さんに筋しかん剤と鍼治療との比較をし、鍼治療の方が改善率が良かった事を報告しています。
また、冷え性を訴える人の中にも肩こりがあり、冷えの治療をしたら肩こりが楽になったという方もいます。
局所の血液循環を良くするよりも、身体全体の血流を改善する方が効果的です。
東洋医学的な治療は、血流を悪くさせている筋肉に直接作用すると共に、交感神経の興奮をしずめ、
治療中に得られるリラクゼーション効果により、抗ストレス効果を高め、又、体質による本治法により、全身治療をする事が出来ます。
現代医学(西洋医学)と伝統医学(東洋医学)の違い
現代医学
現代医学は科学主義で、解剖学、生理学、病理学という基礎医学に基づいて診断します。
(画像診断(レントゲン、MRI)、血液検査)
1. 形あるものは働きがある→形のないものは働きがない(解剖学)
2. 形の異なるものは働きも異なる→例えば、腎臓と肝臓は形が違うので働きも異なる(生理学)
3. 形の異常なものは働きも異常である→例えば、レントゲンでヘルニアがある(形の異常)(病理学)
形を基準として分類するので、人体を「形と働きの異なる器官の集合体」と考えるため、
そのパーツ(器官)も分解する事が可能であると考えます。
→内科、婦人科、眼科…と分かれる
又、異常がみつかり、そこで初めて病名がつくので、症状があっても病名が付かなければ病気ではありません。
東洋医学
目に見えないもの(=働き)に本質があると考えます。
その働きとは、臓腑(内臓)に、
1. 精神作用(五行説)
2. 気・血・津液(身体をつくるもの)
が独占されている、という考え方です。
身体の内にある臓腑(内臓)と外にある身体、その他の部位は、それぞれの経絡(気血の通り道)によって
つながっています。
例えば東洋医学で言う肝臓は「肝」という働きを指し、「肝」は血を貯蔵し、
必要な所へ血を供給する働きをしています。(血=エネルギー源)
又、肝は、目や筋を支配します。
目や筋肉が働くのは、気・血・津液がそこへ流れてくるから見える、動くのだと考えます。
例えば、眼が疲れて眼の奥が痛い、という症状と、肩や頚が凝って痛い、という症状があった場合、
現代医学では、眼は眼科、筋肉の痛みは整形外科と、パーツごとの修理として考えますが、東洋医学では、
目・筋=肝の支配→肝の治療をすると考えます。
又、肝の精神作用は「魂」で、魂は、積極的に行う力、集中してやりとげる力を指し、それは、
肝が血を充分に貯蔵していれば発揮できる力です。
ですから、肝に血が不足すると、やろうと思っていた事が出来ずに、気持ばかり焦って、イライラしたり、怒りっぽくなるのです。
東洋医学でいう健康とは
臓腑(精神作用・気、血、津液を独占)と、それによって働かされる身体とを結ぶ経絡とが、
上手く働いている事が、健康と考えます。
ここが東洋医学が「心身一体の医学」と言われるゆえんです。
現代医学で異常が見つからない、病名の付かない状態でも、患者さんの症状があるというのは「半健康」です。
異常が見つからなければ病名も付かないので、病気として扱われないので、治療も出来ない現代医学に対し、
自覚症状がある、又は自覚症状が無くとも東洋医学の診断に使われる「脈診」などによって、
病的な脈を呈していれば「病気」と判断する東洋医学では、人を病気と扱う範囲が違うのです。